2006/11/14

Cargill : B2B Branding Campaign

Cargillという企業をご存知だろうか。
日本では2000年に東食を100%子会社に収め、世界59カ国に12万人の社員を擁する世界最大の穀物メジャーだ。穀物メジャーといっても食品、農畜産物だけを扱うのではなく、金融やリスク管理分野にも進出している大企業で、それも典型的なB2B企業ということになる。

通常であればCargillは、一般消費者向けにブランド広告をやる必要はまったくなく、パートナー企業にマーケティング努力を集中すれば良いだけだ。実際、2004年のオンライン広告は、Nutrenaというペットフードや懸賞募集で39万impression(推定広告費約2,500㌦)程度の実績しかなかった。













ところが、2005年になると状況が一変し、6,000万impression(同約60万㌦)前後にまで急増している。それもペットフードではなくブランドキャンペーンを開始したのだ。impression数、推定広告費のどちらもIBM、Siemens、Philipsなどの企業広告と比べても遜色のない規模だ。




















なぜCargillはブランドキャンペーンを開始したのか?
そのなぞを解く鍵は、ブランド広告を説明しているWebページにある。




  • Cargillは、21世紀に入り、10年以内に食料や農畜産物の顧客企業に対して最高のソリューションプロバイダーになるという新しい目標を達成する旅を開始しました。価値を創造するため顧客企業と協業することによってのみ成功への道が開けることを我々は理解しています。
  • Cargillのブランド広告は、プリントとTV広告を使い、幅広い農畜産分野の知識と経験からどのようにCargillが顧客企業とコラボレートしているかを示しています。サプライチェーンや製品保証ソリューション、リスク管理の実績、新しい食材開発、健康や栄養問題への対応などについて顧客企業を支援しているミニストーリーをご覧いただけます。
  • 継続する全ての広告のテーマは、Cargillとのコラボレーションが顧客企業を成功へ導くというものです。我々は、現在の、そしてこれからの顧客企業が我々を消費財サプライヤーだという理解から、今、理解されているよりも多くのエリアでソリューションを提供するパートナーだという理解へ広げてもらうことを期待しています。
このブランドキャンペーンのマイクロサイトへ行くと11個のミニストーリーが用意されている。
厨房大学、パルメザンチーズ、冷凍食品、品質保証ステーキ、鶏卵価格のリスク管理、砂糖抜きの甘味料、大豆パン、冷めないハンバーガー、安全な乳児食など、すべてCargillがレストランチェーン、大学生協、スーパーなどのニーズに合わせたコラボレーションを行い、高品質な食材の安定供給や、消費者の健康嗜好にあわせた食材開発を行ったミニストーリーを紹介している。

当然、オンラインだけではなく、プリントとTVも動員したキャンペーンだが、それにしても前年比240倍のオンライン広告予算を投下したキャンペーンは、B2B企業として類を見ないものだ。
B2B企業だから一般消費者向け、マス媒体を使ったブランドキャンペーンなど不要だとする声はある。しかし、B2B企業であったとしても、顧客企業が直接対する一般消費者の目やトレンドを意識しないわけにはいかないし、顧客企業から挙げられる消費者ニーズに即した製品やサービス、システム開発をすることが重要なことは言を待たない。

それだからこそ、原材料供給、加工食品卸だけではなく、高付加価値サービスを提供し、顧客企業および一般消費者に最高の食品、食材を提供するCargillというB2B企 業の戦略、現状を告知し、認知を向上させ、理解を深めるという戦略だと言える。一般的に商社的な業務が多いと思われる穀物メジャーという典型的なB2B企業である Cargillが、顧客企業と一般消費者をここまで意識し、オンラインでのブランディングキャンペーンを実施したことに頭が下がる。

B2B企業のオンラインブランディングキャンペーンの説明としては、ここまででOKだ。しかし、続きの話がある。実は、今年はプリントとTV広告に絞ったようで、その影響がWebリーチに如実に出ている。昨年は右肩上がりできたリーチだが、今年は一段低く、かつ、右肩下がりのパフォーマンスだ。

いくらプリントやTVキャンペーンをかけたところで、最も重要なポイントである11にも及ぶケーススタディや、ストリーミングで伝えたいコンテンツへアクセスさせ、企業ブランドの認知や理解向上を行うことはできない。またマイクロサイトから友人・知人へコンテンツをEmailさせ、バイラル化を図るのにもアクセスしてもらうことが重要だ。もっとオンライン露出からマイクロサイトへのアクセスを誘導するべきなのだが...。

加えて、TVにも、プリントにもURLが記載されていないといった初歩的なブランディングキャンペーンの統合方法に欠陥があるように見える。(実際のところ、プリント広告にはURLが記載されている。しかし、「4 Ways to Integrate Online with Print -1」で指摘されているようにURLが、小さく見にくい。例えば、「Better Beef」というプリント広告は、まるでWebアクセスを拒否しているかのような配置とサイズ、色だ。サンプルはこちら

また、オンラインのブランディングキャンペーンであるからこそ、ボーダレスな訴求を検討すべきだった。特にケーススタディには、イタリアのチーズ工場での生産性向上、中南米でのサプライチェーン構築など、国内に留まらず、海外のパートナー企業とのコラボレーション例がある。これを全世界の顧客企業や一般消費者に告知できるチャンスだった。残念でならない。

折角、B2B企業として空前ともいえるブランドキャンペーンを開始したにもかかわらず、Cargillは足踏みしているように見える。
その一端は前回の話のように;
  • 社内、マーケティング部門の体制充実
  • 広告効果測定能力向上
  • ROIマインドの浸透
ができていなかったため、オンライン広告を前年並み、いや拡大することができなかったのではないだろうか。

しかし、これら懸案をクリアすることでCargill、そして次のグローバル企業が続く。すでにIBM、Siemsen、Philipsなどはオンラインの企業広告を開始している。米国・英語トップサイトで露出されるこれらオンラインの企業広告は米国ユーザのみならず、全世界のインターネットユーザに波及し、蓄積されてゆく。

参考:Cargill公式Webページ
参考:Cargill Brand Advertising 説明ページ
参考:Cargill Brand キャンペーンサイト
参考:CMO Web-Smart Report by WebTrends

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