毎日、ソーシャルメディアというキーワードを聞かない日はない。とに角、ソーシャルメディアが喧しい。バズワードとして十二分に日本中に知れ渡ったようだ。
ただし、それはソーシャルメディアのごく一部である「ツィッター」が取上げられているだけで、ソーシャルメディアそのもの、その本質、現在及び今後への影響を理解した上でソーシャルメディアが語られていることはそう多くはない。
TwitterやUstreamを使って最先端マーケティングをやっていると思っているが、それは違う。新しいツールを使い、苔むしたコミュニケーションメッセージを垂れ流しているだけだ。担当者の自己満足と、上層部の無理解が大手を振って歩いているだけだ。デジタルとか、インタラクティブマーケティング、あるいはソーシャルメディアマーケティング部という部署がある米国企業と比べ、昔からの広報や、広告、製品マーケティングや営業部隊が新しいツールを担当している日本企業は、とてつもなく後れている。
それを端的に表しているものがある。ソーシャルメディア関連の求人数だ。
Google.co.jpで「求人 マーケティング」を検索すると1,160万件がヒットした。Google.comで「job marketing」を検索すると1億1,300万件ヒットした。単純に考えれば米国は日本の約10倍のマーケティング関連求人があると言える。人口、企業数、求職状況を考えれば妥当な差ではないだろうか。
次に同じように今度は、「求人 ソーシャルメディア」、「job social media」を検索すると、google.co.jpは66.5万件、google.comは9,840万件ヒットした。ということは、米国は日本の約150倍のソーシャルメディア関連求人があるということになる。マーケティング求人の15倍の差がついている。それだけ日本にはソーシャルメディア関連求人がないわけだ。企業自体が如何にソーシャルメディア担当者を必要としていないかが分かる。広報や広告、マーケティングのプロは必要だが、ソーシャルメディアのプロは要らないのだ。
(ここまでの検索結果は12月13日)
このソーシャルメディア関連求人の中身はどうなっているか調べてみると、12月18日にgoogle.comで「job social media」を検索すると1億1,300万件がヒットし、「job social media agency」では1,430万件がヒットした。これを単純に考えれば、ソーシャルメディア関連求人のうち12.65%が代理店のもののようだ。米国は企業、メーカー系のソーシャルメディア関連求人が中心になっていると見てもいいのではないだろうか。
次にgoogle.co.jpで「求人 ソーシャルメディア」を検索すると74.5万件、「求人 ソーシャルメディア 代理店」では21.1万件がヒットした。ソーシャルメディア関連求人のうち28.32%が代理店のもののようだ。これを「求人 ソーシャルメディア 制作会社」とすると57万件なので、76.5%が外注系求人のようだ。少なくとも日本のソーシャルメディア関連求人は代理店系、外注先系の求人が多そうだ。
米国の求人サイトはどうだろうということで、「social media」をキーワードとして検索してみると、
- Monster 1,000件以上
- Job Search 3,625件
- Indeed 29,288件
- Career Builder 3,626件
となった。
日本のハロワや転職サイトを見ると、 これはもう悲惨としか言いようがない。いずれも職種、業種、勤務地などは空白として、キーワードに「ソーシャルメディア」を入れて検索してみた。
- ハロワ 5件
- パソナキャリア 4件
- デューダ 18件
- JACリクルート 1件
- リクルートエージェント 2件
- マイコミエージェント 0件
これらすべてが企業、メーカーの求人だとすると、米国の求人サイトと比べると数百分の一、数千分の一以下の求人しかない。非公開の求人もあるだろうが、上記求人数の10倍、100倍になるとはとても思えない。
日本企業、メーカー系のソーシャルメディア関連求人はこれほどお寒い状況なのだ。
社内のアーリーアダプターが社内伝道しても頭の固い上層部は首を振るだけ、他部署に伝道しても固い縦割りサイロ組織の弊害は越えられない。コンサルタントとして自社にコンタクトしていたEsteban ContrerasをヘッドハントしたSamsungまで行くのは不可能だろうが、既存組織ではできないことがあることさえ分かっていないという状況があるからだ。
参考:
Japanese Brands Left Far Behind While Samsung Accelerating (Online Ad / 2010/08/09)
他部署に複層して関るソーシャルメディアマーケティングを行う部署を新設することが必要なのだが、日本のグローバル企業にその動きはない。既存部署のマインドセットのままでは、また、今までのコミュニケーションチャネルと同じコンテンツを供給していてはダメなのだが、本質を理解していないから根本のマインドセットを変えられていない。
既存部署の有志が新しいツールを使って既存手法をソーシャル化したり、あるいは既存部署にツールの担当者を入れて情報発信を行ったとしても、マインドセットが同じなので発信されるコンテンツは、毎日、郵便受けに投げ込まれるポスティングと一緒だ。読まれることも、共有されることもなく、ゴミ箱行きだ。
最悪なのは、代理店、エージェンシーがあげてくるソーシャル提案を鵜呑みにして、昔のままのマインドセット、既存部署、そしてツール主導の広告やマーケティングをやっている企業だ。いや、もっとひどい処も沢山ある。
さて、下はB2Bバイヤーが購買プロセスの3段階で使うコミュニケーションチャネルを、利用頻度と影響力に応じてプロットしたものだ。 利用頻度が高く、影響力の強いチャネルはWOM、展示会・セミナー、サプライヤーWebがあげられ、利用頻度が低く、影響力の弱いチャネルには、DM、LinkedIn、Webinar、雑誌広告があげられている。
それを30歳までのバイヤーでプロットし直してみると、まるっきり画が違う。高頻度、影響大のセクションに展示会・セミナー、DM、そしてWeb検索が顔を出している。また、低頻度、影響大のセクションに入っていたソーシャル系のTwitter、Blog、Facebook、コミュニティサイトが概ね右上へ移動している。
Source:
BaseOne / Buyersphere Report (pdf)
B2Bでさえも既存チャネルと違うアプローチが必要になってきている。そして、30歳未満のデジタルネイティブと、30歳以上のデジタルイミグラントとではこんなにも違う。この状況を理解する企業と理解しない企業がいる。古いマインドセットを切換え、新しいチャネルに対応しようとする企業がいるし、そうしない企業もいる。また、苔むした既存チャネルにしがみ付き、既得権を手放そうとしない組織があり、人がいる。
参考:
Digital Natives and Immigrants (Online Ad 2010/04/02)
半導体、液晶パネル、TV、リチウムイオン電池と韓国勢にシェア首位を奪われてきた日本企業は、製造メーカーとしても、パラダイムシフトの理解においても二番手、三番手に落ちこぼれている。縮小するしかない国内市場をかかえる日本の企業本社が、グローバルなブランディング、マーケティングをやらない限り、SamsungやLGの後塵を拝するのは間違いのないところだ。なぜなら、デジタルネイティブとイミグラントの差さえ理解しない企業に2011年以降の流れなど読めないし、コミュニケーションさえできないからだ。